基礎研究者の墓場@地方国立医学部

医学部は大きく二つに分けられます「臨床(医学)」と「基礎(医学)」

臨床は普段病院で見かける内科医やら外科医やら含まれるところです、一方基礎医学は基本的に患者から離れて遺伝子関係など試験管を必死に振ってます。両者は全く別々というわけでもなく臨床をやってから専ら基礎研究畑に進むひともおります。

ただやはり「基礎医学専念」というのはそれなりに覚悟要ります。臨床なら別にそれほど有名にならなくても普通に「お医者やる」ことで社会経済的な満足感がそれなりには得られると伝統的には期待されます。一方でお医者さんになる権利を放棄して基礎医学に進んで大して芽が出ない場合は「味噌っカス」・・医者やっとけばよかったのにと口には出さないとしても誰もが思うこと。

しかし医学史に残るようなホームランは大抵は基礎研究から生まれるわけで、実際私の卒業した大学では若くして学士院会員に名を連ねたような基礎医学系教授の鼻息など大変なものでした。「お医者さんの仕事なんかワンパターンでしょ(微笑)」・・あなたに言われたら何も言い返せませんスイマセン。私自身も基礎医学に進んで医学史に名前を残せるか vs. 味噌っカスになるかの一発ギャンブルに我が人生を賭ける誘惑に全く駆られなかったわけではないと告白いたします。


さて結局私は無難に(?)臨床医の道を進んだわけですし、いずれにせよ基礎医学に進んで「味噌っかす」に陥った場合の具体像ってのはあまし知らなかった(だって母校の基礎教授ってのは大抵は「勝ち組」だし)のですが、たまたま縁あって今の地方国立に来てみて「なるほど」と思いました。

地方国立医学部では基礎医学講座ってのは実質的に一般教養と全く同じなんですよね。もっと露骨な言い方をすると地方国立医学部の基礎医学講座の多くは、まさに、かつてビッグになろうと希望に燃え基礎研究者の道を歩むことにした者達の墓場であります。

どこの大学でも専門過程に関係無い試験でやたらムキになって落としたがるような、気難しいショボくれた鬱陶しい雰囲気の一般教養の准教授・教授という人種に心当たりないですか?って言えばわかっていただけるひとも多かろうと存じます。端的に言うと「カス」ということです、、。

地方国立医学部では卒業して基礎医学者として出身大学の講座に入るひとはまずおりません。何故ならば「職業としての学問」なんてのは「ネズミ講」と一緒です。臨床医としてで無くて学問で身を立てるのであれば親ネズミ(=旧帝とかの)のところからはじめないと話しにもなりません。はっきり言えば東大京大阪大あたり以外の基礎研究者養成ってのが全く純然たる質の縮小再生産、劣化コピーが更なる劣化コピーを育てるだけ。 仮に地方卒のひとが基礎医学を志したとしたら旧帝の院に行くべきです(滅多にいませんけどね)

ってことで地方公立の基礎は数合わせに発展途上国の2番手以降のひとが留学してきて大学院生やってるイメージ(ちなみにミャンマ辺りからでも最優秀はやっぱ旧帝とか行きます)

医学部の場合は基礎の教授も「医師免許持ってないといけない」ってのが多いですので、旧帝などで芽が出なかった研究者も地方国立出て基礎行くひとがあまりいないのもあってポストの数的には辻褄があう(あってきた)わけですね。でより上位大学の教授になれなかったひとがやってきて、より少ない研究費とより使えない大学院生(発展途上国セカンドライン以下)で研究するということで、新約聖書の「タラントの例え」も思い起こさせます。


PS:そういえばこのギャンブルの「負け犬」確定ってのも37歳くらいかもしれんですね。そうなったところで「40歳そこそこでearly retirementを果たして、役場ならぬ大学に年金受け取りに来てる、しかも窓口で並ぶのでなくて個室もある」とでも思っていただければ幸せになれると思うのですけどねえ・・・

< マタイによる福音書 25章14-29節節>
天の国はまた次のようにたとえられる。
ある人が、旅行に出かけるとき、僕たちを呼んで、自分の財産を預けた。

それぞれの力に応じて、一人には五タラント、一人には二タラント、
もう一人には一タラントを預けて旅に出かけた。
       
        
早速、五タラントを預った者は出て行き、それで商売をして、他に五タラント
もうけた。同じように、二タラント預ったものも、他に二タラントもうけた。

しかし、一タラント預った者は、出て行って穴を堀り、主人の金を隠しておいた。


さて、かなり日がたってから、僕たちの主人が帰ってきて、彼らと清算を始めた。
まず、五タラント預った者が進み出て、他の五タラントを差し出して言った。

『ご主人様、五タラントお預けになりましたが、御覧ください。
ほかに五タラントもうけました。』

主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実で
あったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』


次に二タラント預った者も進み出て言った。『御主人さま、二タラントお預け
になりましたが、御覧ください。ほかに二タラントもうけました。』

主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実で
あったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』


ところで、一タラント預った者も進み出て言った。

『御主人さま、あなたは、蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集め
られる厳しい方だと知っていましたので、 

恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのタラントを地の中に隠しておきました。
御覧ください。これがあなたのお金です。』

主人は答えた。
『怠けものの悪い僕だ。私が蒔かない所から刈り取り、散らさない所から
かき集めることを知っていたのか。

それなら、わたしの金を銀行に入れておくべきであった。そうしておけば、
帰って来た時、利息付で返してもらえたのに。


さあ、そのタラントをこの男から取り上げて、十タラント持っている者に与えよ。
だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持って
いるものまで取り上げられる。